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パイロット・プログラムが持つ力

パイロット・プログラムに落選した企業が競技シーンから去ったことで、EU全土が震撼した。今回はこのシステムの歴史を紐解くとともに、パイロット・プログラムの問題点についても掘り下げてみたい。

オピニオン記事  この記事内で述べられていることは記者個人の意見であり、必ずしもSiegeGGの総意を代弁するものではありません。

ここ数週間のうちに、LeStream Esportとmousesportsという2つの企業がシージのeスポーツシーンから去って行った。人々はこれを企業の欲深さが顕わになった一例と見なしたが、両企業がシージに参入し、そして出て行った理由の根幹には、「パイロット・プログラム」の存在があった。

まずはシージのeスポーツ界に莫大な影響力を持つこのシステムについて少し説明しよう。それからこのシステムによって何が変わったのか、そしてなぜこのシステムが昨今非難の的になっているのかも見ていきたい。

項目一覧:

パイロット・プログラムとは?

知らない人のために説明すると、「パイロット・プログラム」とは、ゲーム内で売られている各種アイテムの収益を、選ばれた企業同士でシェアするプログラムのことだ。以下の画像にある11企業が、このプログラムに参加した最初の企業だ。それぞれ独自のウェポンスキン、チャーム、ヘッドギア、そしてユニフォームがゲーム内のショップで販売され、売り上げ収益のうち30%が企業側に分配された。

パイロット・プログラムに加わった最初の企業。ただしTeam Vitalityだけは、チャレンジャー・リーグに降格したことでチャームしか作られなかった。

パイロット・プログラムに参加した11企業は、同じ要領でゴールデン・プロリーグ・バンドルの売り上げ収益の一部も受け取っていた。

  • 70%はUbisoftへ
  • 21%を11企業で分割
  • 残りの9%はシックス・インビテーショナルの賞金額へ計上

9%とか30%とか、聞いただけではぴんと来ないだろう。だが前のRoad to S.I. イベントでも触れられていたように、こうしたアイテムの売上の一部が半年間だけで賞金総額の最高200万ドルをさらに上回る金額になったことから逆算していくと、パイロット・プログラムに参加するのは企業にとって30万ドル以上の価値があることになる。すなわち、それだけロースターの獲得にも資金を投じることができるわけだ。

物議を醸したゴールデン・プロリーグ・セット (画像ソースは Reddit)

プログラムの確立と影響

パイロット・プログラムは2018年6月5日の開発ブログで発表された。同年9月4日には各企業のウェポンスキンやチャームが販売開始。これはオペレーション・グリムスカイのリリースと同日だった。その後、参加した企業のうち8企業分のユニフォームやヘッドギアも追加された。(Vitalityはチャレンジャー・リーグへ降格。SK Gamingは競技シーンを去っていた。mouzは短い間だけ競技シーンを去っていたので、復帰後に販売された。)

販売されたコスメティック・アイテム一覧 (画像ソースは u/SlayerCR777)

しかしこうしたアイテムが売り出されるまでには、契約を取りまとめたり、プログラムの宣伝をしたり、アイテムのデザインをしたりして1年以上はかかったと、Evil GeniusesのCOOがRedditに書き込んでいる。理由の一つは、EGが競技シーンに参入したのが2017年の11月だったからだ。いわく、「将来導入するパイロット・プログラムに参加しないかと持ちかけられたんだが、そのときこっちはまだロースターを選定しているところだった」。  このときEvil GeniusesはContinuumと契約して、シージ界にもついに巨大企業が登場と相成った。

2018年の最初の数ヶ月間は、大企業の躍進が目立っていた。Team Liquid、FaZe Clan、Counter Logic Gaming、SK Gaming、Fnatic、mousesports、そして当時の新鋭Team Vitalityもそのラインナップに加わった。その理由はパイロット・プログラムだ。最終的にこれら6企業に加えて、PENTA、Rogue、EG。さらにシーズン7の終了時点で既にシージにいた ImmortalsとNinjas in Pyjamasでもって、プログラムの11枠が埋まった。いずれの企業も、パイロット・プログラムによって勢い込んでいたことは想像するに難くない。 

EGがその好例だ。参加企業はそれぞれに異なる事情を鑑みてロースターの選定を行った。たとえばVitalityは、チャレンジャー・リーグで3ヶ月ほど戦ったに過ぎないメンバーを外し、Supremacyのロースターを獲得していた。Team Liquidの場合、BF4で絶大な人気を博し、シージの配信者でもあったziGを獲得した。とはいえ、実に30万ドル以上もの稼ぎが保証されている以上、(たとえ企業側がシージの競技シーンに大した思い入れがなかったとしても、)こうしたロースターの獲得はパイロット・プログラムに向けた投資になる。

パイロット・プログラムを使って大企業にまず競技に参入してもらおうとした点では、Fnaticが紛うこと無き成功例だろう。(写真提供: @AusGamesAwards)

シージに新たに参入してきた企業が、本当に「純粋な」熱意を持っていたかどうかはともかく、こうした企業がプレイヤーたちに選手としての正当性を与え、宣伝をして、ブートキャンプの場を設け、さらには競技シーンにまっとうな賃金をもたらしてくれたのは喜ばしいことだった。それは疑いようがない。パイロット・プログラムによって、シージのeスポーツは間違いなく良い方向へと変化した。しかしフェイズ2が始まろうとする今、問題点が浮上している。

フェイズ2と今後の展望

プログラムが成功したこともあり、Ubisoftはフェイズ2では16チームが参加するとアナウンスした。同時に収益シェアにも以下のような変更を加え、選考にも新たに明白な規則が設けられた。この新規則には、大まかに言えば、プログラムに興味を持った企業に対する次のような質問や要望が列挙されている。

  • 何故あなたがた(企業)はレインボーシックス シージに興味を持ったのですか?
  • あなたがた(企業)がレインボーシックス シージで活動する上で、既存のファンベースにどのように参加を促していくのか、説明してください。
  • あなたがたの企業理念は何ですか?
  • あなたがた(企業)のソーシャル・メディアの運用状況に関する詳細と、あなたがた(企業)がプロモーションに使おうと考えている全プラットフォームの、レインボーシックス シージeスポーツの過去3ヶ月における分析データを提出してください。
  • あなたがた(企業)がレインボーシックス シージの選手たちに支払っている基本給は幾らですか?
  • あなたがた(企業)のレインボーシックス シージのロースターのために、どんなサポートスタッフを手配する予定ですか?
  • 通常通りにプロリーグの試合が行われる日には、どのような広報宣伝活動をしているか、説明してください。

この新基準の全リストはここで読むことができる。

収益シェアの新分配率に関する説明 (画像はrainbow6.ubisoft.comから)

※訳注

  • プロリーグ・アイテム:すべてのプロリーグセットの販売によって得られた純収益のうち30%が、パイロット・プログラムに参加したチーム間で等分される。
  • プロリーグチーム・アイテム:チームブランドのついたアイテムの販売によって得られた純収益のうち30%がそのチームにシェアされる。シェア分のうちのさらに30%は選手に割り当てられる。
  • 「Road to SI」イベント:「Road to SI」イベントから得られた純収益のうち30%が、シックス・インビテーショナルの賞金額へと計上される。パイロット・プログラム参加チームがシックス・インビテーショナルで賞金を獲得した場合、「Road to SI」イベントの収益から積み立てられた金額分については、企業に50%、選手たちに50%と等分される。

狙いは実に分かりやすい。Ubiは最高の企業を集め、支援したいと思っている。競技への関わり方、サポートの仕方、ゲームへの関心度が重要なのであって、パイロット・プログラムのためにロースターに資金を投じ、用が済んだらハイサヨナラするだけの有名企業(まさにSK Gamingがそうした手口で大顰蹙を買った)は求めていない。その手の企業はこのゲームのためにならないと見ている。

だがそれでも、極めて明白な問題点がある――参加チームに上限があることだ。Ubisoft側は現在シージに参加しているすべての企業のアイテムをデザインすることはできないが、一方で企業側にとっては、チームメンバーを決めていく上で何よりもまず念頭に置かなければならないのがパイロット・プログラムの存在だ。フェイズ1の参加チームが決まって以降、次のような企業が新たにシージに参入してきた。Cloud9、G2 Esports、Team Secret、LeStream Esport、Team Empire、Rise Nation、Team SoloMid、Luminosity Gaming、Natus Vincere、Team Reciprocity。

この10企業に、フェイズ1にも参加した10企業。さらにシージで成功を収めた、Spacestation Gaming、Mindfreak、Chaos、そしてBlack Dragonsといった、まさに「レガシー」と呼ぶべき企業。合わせて24チーム。パイロット・プログラムに参加できそうなチームだけでも既にこれだけの数があるのだが、このうちの数チームは落選してしまうことになる。

もしとある企業が、ロースターを選ぶ際に多少なりこの30万ドル以上の追加収益のことを前提にしていたとして、後でそれが手に入らないと分かったら、去って行く企業の方だけを責めるのは酷だろう。彼らは競技シーンに投資をし、見越していたリターンが得られないと悟った。それなら引き揚げない理由はないはずだ。

さらに時間軸にも問題がある。プロリーグには現在3つの無所属(orgless)チームが存在している。彼らに給料を支払ってくれる新たな大企業の登場を私たちは心待ちにしているが、プログラムの枠を埋めるのは16の堅実なる企業だけだ。フェイズ3への参加募集が始まるまでは、新企業が今からプログラムに入れる余地は無い。シージには名だたる大企業が多すぎて、全員はプログラムに参加できない――何とも嬉しい問題ではある。だがプログラムに入れなかったメジャー級の企業が毎年のように競技シーンから去ってしまうようなことになれば、これは大問題だ。

解決案

コミュニティ・メンバーからはここのところ、パイロット・プログラムにまつわる問題を一挙に解決しようと数多くのアイデアが寄せられている。だが、いずれも実行に移すのは容易ではない。

コミュニティ・スキン

元Team Secretの選手Lackyと、Looking for Org(前LeStream Esport)のコーチCrapelleが提案したのは、コミュニティ・メンバーの手によってデザイン、製作された武器スキンだ。これならUbisoftの開発スタッフの仕事を減らし、リリースまでの時間も早めることができるうえに、より多くのチームに参加してもらうこともできる。

とはいえこのアイデアは目新しいものではなく、シージには既にコミュニティ・スキンが存在している。製作者はデザイナーのZoe Loveだ。コミュニティ内の名だたるアーティストたちが手に手を取ってスキン製作を肩代わりするようになれば、数え切れないほどの煩雑なやりとりを介さずに、さらにより多くのトップチームのためにスキンを作ることができる。

しかし、このアイデアは発展していかなかった。現在のパイロット・ブログラムでも、最初のうちは企業側が自分たちのアイテムのデザインについて大きな発言権を持っていたらしい。たとえばNiPは最終版が決定するまでに複数のチャームデザインをUbisoftに提案していた。だが現在は製作過程をUbisoftがコントロールしているようで、企業はフィードバックを返すだけだとG2 Esportsのチーム運営部門長が語っている。

まず第一に、Ubiが参加チームの数を制限しているのは仕事量だけが問題なのではない。30以上ものチームで収益シェアを分配して欲しくないのだ。一企業の取り分が減れば、それだけシージに留まる意欲が削がれることになる。そしてプログラムへの参加チームを増やしてしまったので、製作プロセスを早めるために仕事を内々で完結させるようになっている。こうした二つの理由から、Ubiは外部からのデザイン案を受け付けなくなった。

コミュニティ・メンバーにスキンをデザインしてもらえば、他のどんな方法よりも早くデザインはできる。だがそのスキンをゲームに実装するには、プログラミングし、新規参入企業と契約を取り交わし、適切なマーケティングを行い、既にプログラムに参加している16のグループとそれぞれ交渉をする際に、そのスキンが問題を起こさないよう努めなければならない。

デザインというのは製作プロセス全体のほんの一部に過ぎない。私としてはUbisoftがより多くのコミュニティ・スキンを導入してくれたら嬉しいが、デザインをするだけ、参加チームを増やすだけ、というのでは他の問題が悪化するばかりで、解決策にはなりそうにない。

基準を変え、参加資格のあるチームにだけスキンを与える

分かりやすい解決策は、参加基準を変えて、パイロット・プログラムへの参加資格を大会上位チームへの報酬にするという案だ。だがこれも別の問題が生じるだけで、役に立ちそうにない。 

現時点で、シックスメジャー・ローリーへの出場枠は半分以上が決まっている。だがそこにはまだTeam Liquid、Ninjas in Pyjamas、Cloud9、Team SoloMid、Luminosity Gaming、Immortals、Natus Vincere、Team Vitality、そしてTeam Reciprocityの名前はない。ちょっと挙げてみただけでもこれだけのチームがあり、全員が出場できるわけではない。メジャーに出場しそうなチームを予想するには不確定要素が多すぎるので、大会上位チームだけがプログラムに参加できるようにしてしまうと、シージにやって来た大企業の多くはさっさと競技シーンから出て行ってしまうだろう。

現時点でメジャーへの出場が決まっているチームと、残りの出場枠( Liquipediaより抜粋)

パイロット・プログラムへの参加を想定して、ロースター選定にはそれに見合った出資を行ったとしても、大会に出場できるかどうかは五分と五分だ。たとえば南米リージョンにはまだNiPやLiquidにその可能性が残っているが、枠はたったの一つしかない。そして参加できないとなれば、投資した分の計算がまるで合わなくなってしまう。このように、ほんの数チーム以外はパイロット・プログラムに参加できる保証が得られないとなれば、確かな資金力のある企業だけが各リージョンの上位2、3チームを囲い込んで、各リージョンのプロリーグの下半分は、イヤー1やイヤー2の頃のように、取り立てて名の知られていない企業が埋めていくという構図になってしまうだろう。

この「解決案」では、競技シーンに参入する企業が不足してしまうという問題を解決できない。巨大な企業がこぞって競技シーンにやってきたとしても、どのみち16チームしか枠に入れないのだ。このルールだとmousesportsのような中堅には何の意味もない。

別のパイロット・プログラムを作る?

デザインし、プログラミングし、動作テストをし、企業と契約する。そうした作業を毎年各16種ものスキンやユニフォームやヘッドギアやチャームごとに行うのは、見るからに骨が折れる。だがCS:GOのようなステッカーが、比較的簡単な答えになるのかもしれない。今年の初めに@Candor氏も、自分の オピニオン記事でシージのウェポン・ステッカーを作っていた。

Helbee、LaXInG、FoxA、z1ronicのウェポン・ステッカー @Candor

各企業の、あるいは各選手やコンテンツ・クリエーターのステッカーなら、「1、武器スキン丸ごと一つ作るよりも簡単」、「2、すべての武器に貼れるようにすれば人気が出そう」、「3、収益シェアシステムを介して宣伝できる」、「4、企業にとってはより小規模の、別のパイロット・プログラムになる」。

現行のプログラムでは、企業には「パイロット・プログラムに参加して巨万の富を築くか」、「パイロット・プログラムに落選して競技シーンを去るか」という極端な未来しかない。こんな状況は目に余る。DarkZeroやBlack Dragons、LeStreamにmousesportsといった、大きなファンベースを持っている中堅企業のための折衷案としてウェポン・ステッカーを作れば、彼らはその売り上げから利益を得ることができるうえに、うまくすればシージにもっと長く留まってくれるかもしれない。競技シーンの面では、Ubisoftは賞金額や製品に投じるための資金が得られるし、ファンは自分の銃に好きな飾り付けを施すことができる。

たとえば、北米・南米・EU・APACのプロリーグの全チームのステッカーを作り、大会や毎週のプロリーグの試合の後にはMVP選手のステッカーを作ったりして、各々で収益を分割してみてはどうだろう。従来のパイロット・プログラムに参加しているチームも、大会などで最高の成績を残すことで、もう一つのパイロット・プログラムがいわゆる臨時収入になる。

パイロット・プログラムの今後は?

コミュニティからどれだけ不満が出ていようと、現時点でフェイズ2に変更が加えられる見通しはない。こちらとしては、パイロット・プログラムの落選を理由に競技シーンから去って行く企業がこれ以上増えないよう祈るばかりだ。参加企業が公開されるのは来月のシックスメジャー・ローリーのeスポーツパネルだろう。9月のシーズンアップデートで、ペルーとメキシコのオペレーター、リワークされた「運河」マップの実装と同時に、各コスメティック・アイテムも販売開始するものと見ている。

フェイズ3に向けて、参加チームの数を増やすか、作業プロセスを簡略化してくれることを願う。ある企業が――Twitterに20万ものフォロワーがいて、ロースターをあらゆるオフラインイベントに送り出してくれて、選手たちのことをまめにツイートしてくれて、昨シーズンは世界でもベスト8に入っていて、ブートキャンプも催してくれたうえに、新たに3名のスタッフを雇用していたような企業が、どうすればパイロット・プログラムから落選できるのか、私にはまるで理解しかねるからだ。

シージのeスポーツがティア1企業へのサポート手段としてパイロット・プログラムに依存し続ける限り、mousesportsの件と似たようなことが毎年のように起き続けるだろう。だが問題点が深刻化していない現時点では、パイロット・プログラムは上手い具合にチームや選手たちのテコ入れを果たしてくれている。

素場らしいプログラムであることに間違いはない。だがプログラムそのものを成功させる仕組みに欠けていることが問題だ。

Fnaticのサッチャースキン (画像ソース pcinvasion.com)

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