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「勝利のプログラム」 - いかにしてDarkZeroはチーム文化を築きチャンピオンを目指すのか

過去に類を見ないペースで勝ち抜いているDarkZero。チームの哲学は悲願のタイトル獲得につながるのだろうか

7月のとある炎天下の日、午後2時のこと。メジャー出場を賭けて強大なSpacestation Gamingと対戦する4日前、DarkZeroのメンバーはESPNで『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』を鑑賞していた。

別に遊んでいたわけではない。彼らは元シカゴ・ブルズのスーパースター、マイケル・ジョーダンを取り上げたこのドキュメンタリー・シリーズを通して、リーダーシップについてどんな教訓を得られるか研究をしていた。「私たちは、偉大なものを研究するのに多くの時間と労力を費やしています」と語るのはDarkZeroのCEO、Zach “The DPZ” Matula。「ヒーローを定義し、誰になりたいかを定義するんです。」

先週はOxygen Esportsがメジャーに向けて首位の座を獲得した。しかし7月7日の時点では他の追随を許さないほどの独走状態ではなかったこともあり、多くの人々から首位争いはDarkZeroとの接戦になると見られていた。DarkZeroはまだ5マップでしかプレイしていないとはいえ、Susquehanna Soniqsに1マップ取られただけで、獰猛さで知られるTSMのロースターとの熱戦も2-0で制し、第1ステージ第2フェイズにおけるアッパーブラケットの座を確保していた。

DarkZeroがレインボーシックス シージにおける上位の存在となったのはこれが初めてではない。シックスインビテーショナル2020のメインステージでは、最終成績準優勝のNinjas in Pyjamasに0-2で敗れるなど、これまでタイトル獲得まであと一歩というところまで行っては退けられていた。そして今回のDarkZeroはひと味違うかもしれない。

知性の高さで知られる北米チームであるSpacestation Gamingと、DarkZeroの試合では何かが起きるかもしれない。きっと精神的にも疲れる展開になるだろう。Matula氏は今回の挑戦に向けてチームの仕上がりは上々と確信しているが、彼が言うには、それは一朝一夕で築きあげたものではない。2020年に実を結びつつある「DarkZero流」と呼ばれる包括的なビジョンは、その実長い時間をかけて作られてきたプロジェクトだった。

レインボーシックス シージの草創期、DarkZeroという組織自体はこのゲームにほとんど何の関わりもなかった。

「実を言うと、当初はCS:GOに参入するというコンセプトだったんです」とMatulaは語る。「その後、次世代のゲームプレイとその成長に関する統計数値に基づいて、最終的にレインボーシックス シージへの参入を決めたんです。CS:GOが良い投資先ではないと感じていたわけではないし、実際CS:GOは非常に良い投資になり得ると思っていましたが、シージの競技シーンの成長見通しが気に入ったんです。」

競技シーンの財務知識に明るくない者にはまるで奇々怪々なその賭けの結果、シージの競技シーンはeスポーツにおける「ティア2」から「ティア1」へと成長した。今日までこのゲームを苦しめている技術的な問題が複数あるにもかかわらず、彼の賭けは実を結んだようだ。esportsobserver.comによると、シージは2020年の第1四半期に「ティア1」の地位を得たが、これは他のeスポーツイベントが中止された中で、インビテーショナルが2月に開催されていたことに起因するものと思われる。

当然ながら、多くの人がこのゲームの道のりはまだまだ長いと思っているが、見通しについてMatula氏は自信を持っている。「シージは(ティア1タイトルに定着するための)道のりを順調に歩んでいると思います。私たちが参加したこの1年半だけでも、競技シーンはかなりの成長を遂げてきましたから。」

参入タイトルは決まったが、出場にはロースターが必要だった。最終的には元F3/SK Gamingのロースターに決まったものの、Matula氏は最初から彼らに注目していたらしい。「彼らが第一候補で、これ以上のものは望めないほどでした」と彼は言う。「私たちは、eスポーツの世界に足がかりをつけるために特殊な方法を採っていました。特にコンペティションに関することにはね。私たちはビジョンに基づいたハードワークがしたかった。それこそが期待値を高くし、報酬も大きくする文化だと考えています。チームには多くのサポートを提供していますが、チームからはそれ以上のものを期待しています。」

チーム文化の面では、キャプテンのKyle “Mint” Landerと面談してみて、元SK Gamingのロースターはチームのメンタリティに完璧にフィットしていたとMatula氏は言う。彼ら全員がヒューストンに招かれ、ほどなくして今度はラスベガスに引っ越すことになった。最初から、このゲームへのアプローチはシンプルだった。eスポーツに真剣に取り組み、労働倫理を重視し、精神的にも肉体的にもタフになることだ。「あらゆる分野において、世界一になるというのは途方もなく難しい課題であり、そんな途方もなく難しい課題を達成するためにはまず、その課題を真剣に受け止めなければなりません」とMatula氏は述べる。

「世界中のどんなチームも、私たちが成長するのと同じくらいの早さで強くなっていると思っています。だから私たちは、もっと早く強くなることが肝要なんです。」

「言うは易く行うは難し」と思うだろう。しかしDarkZeroは最高の栄誉に浴したわけではないにせよ、今日までの統計がその成果を裏付けている。DarkZeroはチーム成立以来、他のどのチームよりも多くのプロリーグ戦で勝利している。とはいえDarkZeroが研究しているマイケル・ジョーダンという男が称賛されているのは、彼がメンタリティと努力によってタイトルを掴んだからだ。それはDarkZeroがまだ達成していないことでもある。常滑市で敗北した後、チームはAlexander “Skys” MagorとTyler “Ecl9pse” McMullinを迎え、Brandon “BC” CarrはJordan “BKN” Soojanとの共同コーチに席を移した。そして最近では、BCを唯一のコーチとして、BKNはチームのブランドコーディネーターというポジションに移った。

「ほとんどの(他の)eスポーツタイトルでは、ロースターづくりはある種の錬金術ではないかと思っています」とMatula氏は言う。「数多くのプレイヤーの中から選手をそろえて、うまくいくようお祈りする。けれどもしうまくいかないなら、諦めて別のプレイヤーを探すんです…。長期間続くようなロースターとプログラムを構築したいんです。来年、再来年、そして5年後、10年後にもシージが存在するというモデルに基づいて、多大な投資をしています。つまり時の試練にも耐えられるプログラムを組むということです。」

常滑市での敗戦の後、自分たちのチームのあらゆる側面について考えさせられたとMatula氏は語る。ファンたちはチームメンバーに会うために4時間半も並び、会場から追い出された後も2時間ほど会場の外にいた。「間違いなく、あれは私たちにとって最高の瞬間でした」とMatula氏は語る。「実際そのときの写真を額に入れて、ブルペンに飾っています。私たちがここで何をしているのか、そして私たちが影響を与えている人々について、忘れてしまうのは簡単だからです。多くの場合、選手たちは率直に言って、毎朝のように目を覚ますただの人間です。99の良いコメントを読んでから、1つの悪いコメントを読むと、1つの悪いコメントの方が頭にひっかかり続けてしまうようなね。」

インビテーショナルではメインステージに進出したものの、北米のライバルであるTSMとSpacestationに後れを取った今、悲願のチャンピオンの座に挑戦するためには、DarkZeroにはもっとやるべきことがあるのは明らかだった。

旧プロリーグ最後のシーズンとなったシーズン11では、インビテーショナルでの出来映えを反映した形なのか、DarkZeroはSpacestation Gamingとわずか3ポイント差、TSMとはたったの2ポイント差で3位に終わった。

北米ディビジョンにおけるシリーズの初戦では、サブ選手が2人プレイしていたこともあって予測不能だったSusquehanna Soniqsのロースターを相手に、DarkZeroはややぐらついているように見えた。DarkZeroは第1マップは落としたが、試合には勝利した。翌週のアッパーブラケット進出を確たるものにするための試合では、TSMに0-3のラウンドスコアでリードを許してしまった。

TSMに対してDarkZeroがどうやって巻き返したのかという質問に対して、Matula氏はチームの哲学を明かしてくれた。「私たちが重きを置いている原理原則があるんです...。シージは伝統的なスポーツを含めた他のタイトルとは異なり、究極的には『ワンラウンド・ゲーム』なんです」

「バスケットボールの試合でリードされている場合、時間があるならより積極的なプレーをしていきますし、より多くの点を取らなければならないので、プレースタイルも変えいきます。ですがシージはそうはいきません。ワンラウンドをプレイして、リセットして、次のラウンドをプレイして、リセットする必要がある。以前からDarkZeroは試合の序盤で苦戦していたことがありました。前のラウンドのことを次に持ち越してしまう。そしてラウンドを連続で取られる試合ほど、勝率が低くなっていることに気付いたんです。現在では、ロースターと時間をかけて作り上げてきたプログラムがあるので、負けたラウンドの後も、勝ったラウンドの後と同じように良いプレーをしています」。

Matula氏が育ててきたチームビジョンは、その試合で成就した。DarkZeroは4ラウンドを連取して復調し、オーバータイム8-7でマップを制すると、その勢いのまま第2マップへと進み、ついには3ラウンドを連取して7-5のスコアで勝利した。「本当はラウンド中にスコアボードを消すことができればいいのですが、うちの選手たちはボードが見えていないつもりでプレイするのが本当に上手いと思います。」とMatula氏は言う。

DarkZeroはチームとしては成功をおさめたが、北米リーグにおいてどんな未来が待っているかは定かではない。TSMも長期間続いているロースターではないし、Spacestationは出だしの苦戦の経て本来の姿を取り戻したように思える。Oxygen Esportsのロースターも、テコ入れに成功して信じられないくらい強くなっている。月曜日に行われるSpacestationとの試合は間近に迫っている中、反省会をやっている時間はほとんどない。だがメジャーへの出場権を獲得し、チームにとって悲願のタイトルに向けた再挑戦をするために、Matula氏はこう振り返る。

「みんなのことを、特に、最初からここにいるみんなが成長していく姿を見るのはとてもクールなことです。勝利に値する者が勝つと、私は少し感傷的になってしまうんですよ。中でもMatt (“HotanCold” Stevens)やKyle Lander、Brandon Carr、Jordan Soojan。彼らがドアから入ってくるのを見ると、最初に彼らに会ったときとはまるで異なる人間になっているように感じるんです。私はそれを心から誇りに思っています。」

Matula氏によると、現在のDarkZeroの最大の強みの一つは、お互いに責任を持ち合うことであり、その構造がタイトル獲得までの長い道のりを歩むうえでの助けとなっているという。「お互いに責任を持ち続けるという点では、うちのチームは非常に優れています。一人ひとりがお互いの夢や願望を共有して、それについての責任を真剣に受け止めているんです。」

しかし、鉄壁の理論とゲームプランを持っているように見えることと、それを完璧に実行することは別だ。これまでDarkZeroは順調な道のりを歩んできたが、まだタイトルを手にすには至っていない。DarkZeroが進化する一方、他のチームもそれぞれの方法で進化を遂げており、チームの哲学に関係無く、リージョン内の覇権争いはロースターにとって重圧となっていく。しかしMatula氏の言葉を借りれば、「錬金術」もいずれはうまくいくだろう。

確実なものなど何もないことは分かっているが、DarkZeroは北米だけでなく、世界の舞台でも厄介な存在となっている。エントリーフラッガーのPaul "Hyper" Kontopanagiotisは統計における過去最高のポイントを記録するかもしれないし、マップを落としたのが1度だけということもあり、DarkZeroはそれほど気負うことなくSpacestationに挑めるだろう。もしメジャーへの出場権を獲得すれば、優勝の可能性も十分にある。Matula氏によれば、現時点ではその目があるとのことだ。

「今のところ、これまでで最高のレベルでシージをプレイしていると思います。」

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