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「APACの門番」、Aerowolf入門

Aerowolfがシックス・インビテーショナル2017以来、久しぶりに世界の舞台に出場する。今回はこのチームの歴史と、これからのことについて少し見ていこうと思う。

こう言うと驚くかもしれないが、Aerowolfはとても長い歴史を持つチームだ。

シックス・インビテーショナル2017のときは、Team Envyという名前だったことを覚えている人もいるだろう。その原型ができたのは、APACにまだアマチュアの対戦環境しかなかったイヤー1の始め頃だ。APACから国際大会に出場した最初のチームとして誉れ高いだけでなく、そこで世界を相手に1マップを取った最初のチームがEnvyである。

彼らは後にCloud9となるチームを倒してシックス・インビテーショナル2017のアジア・オンライン予選を軽やかにくぐり抜け、シージ界では最も格の高いイベントの第一回大会にその座席を確保した。Glen “Lunarmetal” Suryasaputra、Adrian “Ysaera” Wui、Warren “Reveck” Lim、Harri “Quantic” Hong、そしてNicholas “Kori” Chinから成るこのチームは、6チームによるトーナメントの最初の試合でeRa Eternityと対戦した。

シックス・インビテーショナル2017でのTeam Envy(写真提供:Team Envy)

当時はまだ作戦の定石も無ければ、Go4sのようなプロリーグさえ形になっていなかったにも関わらず、Team Envy(と名乗っていた彼ら)は強気に出た。自分たちよりも遙かに格上の相手と殴り合いを演じ、第1マップのクラブハウスでは6-5というスコアで優勢を得ることができた。しかしシンガポールの人々の夢も長くは続かず、第2マップと第3マップは共に落としてしまった。

国に帰ってもプロリーグは存在しなかったので、Quanticはイギリスで学業に励む傍ら、シーズン4に向けて短期ながらもヨーロッパチームのBarrage eSportsに加わった。彼はそれなりのパフォーマンスを見せたのだが、残念なことにチームは一勝もあげることができなかった。故郷に戻ってきた彼はTeam Envyに再加入した。その後間もなく、シーズン6以降APACでもプロリーグが開催されるというニュースが飛び込んできた。

オンラインでのリーグ戦に向けてチーム名もTydeに変え、Koriがチームを去って、Richard “shinbagel” Shinをその陣容に加えた。APAC Finalsを前にしてチームはTeam CryptiKと契約。あと一歩でプロリーグ・ファイナルズへ出場というところまでこぎ着けたのだが、最終的にAPACチャンピオンとなるeiNs(現FAV Gaming)に倒された。第3マップのカフェで5-5の状況となり、Tydeは防衛側で、両チームの選手は5人とも万全の状態だった。結局そのラウンドでTydeは敗れ、今一度世界大会に向けて出陣しようという彼らの夢も潰え去った。

このときの敗北から、「パターン」が生まれてしまった。彼らにとってもファンにとってもたまったものではない話だが、Aerowolfとは他のチームにタイトルを捧げる「APACの門番」ということにされてしまった。どんな大会であれ、Aerowolfが世界規模の大会に出向こうとすると、毎回彼らは最終的に優勝するチームに敗れてしまう。一度だけ例外があったものの、そんな風評がすっかり定着してしまった。選手が次々に入れ替わっても、同じ結果になっている。

ダブルイリミネーション形式で争われたシックス・インビテーショナル2018のオフライン予選では、Team CryptiKはMindfreakと二回戦い二度とも敗れた。その後のシーズン7APACファイナルズでは、チャンピオンになるFnaticにまたしても敗れた。単に努力が足りなかったわけではないだろう。シックスメジャー・パリのオフライン予選でも同じことが起きてしまった。このときはElement Mystic(現Cloud9)の前に倒れた。シーズン8のAPACファイナルズでは野良連合に敗れ、シーズン9ではまたしてもFnaticに敗れている。前述した唯一の例外というのはシックス・インビテーショナル2019のオフライン予選でのことだ。そこで彼らはFav Gamingに敗れたが、Favもその後(当時はmanticFPSだった)Cloud9のロースターたちに敗れている。

ある者は、これぞまさしく呪いだと言うだろう。別の者は、チャンスを幾度となくふいにし続けている以上、メンタル面の問題だと言うだろう。それ以外の者は、単に勝利に見合うスキルが無いだけだと片付けるだろう。

正直に言うと、何が問題なのかを明確にするのは非常に難しい。私(記者)もAerowolfが所属する東南アジア地域でプロリーグ・キャスターをやっている英語話者としては、ひいては多少なり彼らと一緒の時間を過ごしてきた身としては、確かに思い当たる節はある。しかし何故彼らは世界大会に出られないのか、明言はできない。

呪いなどというのは、まことしやかに言いふらされているネタではあるが、もちろん戯言だ。メンタルの問題なのだろうか。しかし最初からチームにいるのはLunarmetalとYsaeraだけで、顔ぶれは変わり続けている。なのに未だ成功を掴めていない。そしてスキルについてだが、彼らをもって「スキル不足」と言うのは的外れだろう。Aerowolfは途轍もないハードワークをするチームだ。ひたむきにスクリムを繰り返し、日夜可能な限りシージに打ち込んでいる。しかし、彼らにはいつも「何か」が欠けているように見える。

シーズン9APACファイナルズにおける、上位4チームの全体統計

今シーズンは、これまで年齢のために試合に出られなかったPatrick “MentalistC” Fanをサブからメイン・ロースターに加え、同時に爆発力に期待できるMatin “SpeakEasy” Yunosも入ったが、チームはまたしても世界のファイナルズには出場できなかった。MentalistCは今年のシックスインビテーショナル・オフライン予選までは出場年齢に達していなかったが、実のところ創設時からチームに加わっていた。しかし彼を投入してもなお、Fnaticには歯が立たなかった。

シーズン9のプロリーグでAerowolfは4試合を落とした。そのうち3試合は、指先一つで払えるはずのチームが相手だった。連敗によってみじめな地位に追いやられ、彼らにはAPACファイナルズへの出場さえ危ぶまれた。

リーグ戦最終日に、Aerowolfはようやくシドニーへのチケットを掴み取った。突然ライバルとして立ちはだかってきたScrypt E-Sportsを倒して最下位から浮上し、さらにXavier Esportsの二人の選手がアクション・フェイズに入ったところで回線落ちするという幸運にも恵まれたことで、そのとき二位だったScryptを抜くのに必要だった貴重な1ポイントを手に入れることができた。

長引く不調のせいで世界的なイベントには出場できていないAerowolfだが、同朋たちからは今なお敬意を払われ、また恐れられてもいる。それを雄弁に物語っているのがシーズン8だ。APACファイナルズでの第1シードを賭けた試合で、Aerowolfは Xavier Esportsに敗れた。するとその後、APAC内で第1シードを見込まれていた他のチームもすべて負けてしまった。これはファイナルズの第一戦で、Aerowolfと当たるのを避けたのだと解釈された。これだけ敬われていながら、なぜ一度もAPACファイナルズを突破できていないのだろう?

その答えは、Aerowolfがその経験の深さ、スキル、そして練り上げられた作戦を試合に持ち込んでくるところに鍵がある。Aerowolfと対戦するチームは例外なく、全力でぶつかってシージで最高の試合をすることになる。つまり最終的にチャンピオンになるチームは、それだけAerowolfから背中を力強く押されることになる。

Fnaticのコーチ Jayden “Dizzle” Saundersはこれまで3回Aerowolfに勝つのを間近で見てきた人物だが、彼がこの点を簡潔に説明している。

Aerowolfは手強いチームだ。APACが始まってから、幾度となく顔ぶれが変わり続けている。界隈のファンや対戦相手から深く慕われているいる理由は、彼らが幾通りものメタを駆使しながら、機械的なスキルでもって巧妙に立ち回るからだ。

他のどんなAPACチームよりも早く学習し、状況に適応する。どんなマップでも納得のいくプレイングをし、その身のこなしは優雅なものだ。

私たちが他のどのチームよりもAerowolfを警戒する理由は、彼らがこちらと似通ったプレイングをするのが最も上手いからだ。いついかなる時でも、彼らには何でもできる。対戦チームはお互いのことを知り尽くすことになる。互いのことを理解すれば、互いに次の動きが予想できるようになる。同時にそれを恐れるようになる。

Fnaticはシックスインビテーショナルで準々決勝に二度進出、ファイナルズには準決勝まで二度進出したチームだが、彼らもAerowolfを恐れるのだとすれば、それだけの理由があるわけだ。Aerowolfのことを侮ってかかると致命的な過ちを生む。今シーズンにおけるリーグ戦でのパフォーマンスは凄惨なものだったが、シドニーに現われた彼らはスリル満点の試合を披露してくれた。

準々決勝でのCluod9戦、大方の予想スコアはCloud9の2-0だった。終わってみれば、やはり「2-0」。しかし勝ったのはAerowolfだった。世界中のキャスター陣からも事前にSiegeGGへ予想票を投じてもらっていたが、誰一人としてAerowolfの勝利を想定していなかった。毎週オンラインでAerowolfの試合を観戦していたので、私もまた韓国チームに降伏することになるという予想には自信があった。何せ相手はシックス・インビテーショナル2019で、G2 Esportsから1マップを取りかけた程のチームだからだ。他のAPAC出身キャスターであるJames “Devmarta” Stewartも同意見だった。しかしAerowolfはCloud9を7-1、7-1で一蹴した。

シーズン9APACファイナルズ、準々決勝でのAerowolf対Cloud9の試合統計

彼らはFnatic相手にも、一日前のCloud9戦と並ぶほどの、予想を遙かに上回る好勝負を演じてみせた。1マップ目は落としたものの、逆に第2マップのオレゴンではまたしても7-1というスコアでFnaticを一掃した。第3マップで3-5と劣勢になった後でも、Fnaticに暴れさせず、体力を保ちながら相手にしっかりと食らいついていた。もっとも、その勢いも長くは続かなかったのは残念だ。

この度ラスベガスで開催されるAllied Esports Minorに招待されたことで、Aerowolfはようやく「後のチャンピオン」に倒されることなく、その腕前を世界の舞台で披露することができる。

マイナーに出場する選手たちによれば、最初の対戦相手はDarkZero Esportsになる。しかし一度スクリムをして、オフライン大会の試合動画を見たくらいでは、DarkZeroにはAerowolfのことがまるで理解できていないに違いない。

ここ一年以上ずっとYsaeraがベストコンディションを保っているのは、チームにとっても、そしてファンにとってもこの上なく嬉しいことだろう。MentalistCとSpeakEasyにとっても、ちょうどAPACファイナルズで見せてくれたような献身的なチームプレイをもう一度見せるときが待ちきれないだろう。

シーズン9APACファイナルズ、準決勝でのAerowolfとFnaticの試合統計

しかしたった3人で試合に勝つことはできない。FnaticがAerowolfを倒せた理由も、大部分はその戦略によってスター選手であるJeremy “HysteRiX” Tanの存在を上手く消しておけたからだ。同様の戦略はEvil GeniusesのNathan “nvK” Valenti にも用いられ、シーズン8のファイナルズは彼の人生における最悪のオフライン大会になってしまった。幸いなことに、以前の敗戦でもHysteRiXの自信には傷がついていないようだ。「すべてにおいて、俺たちが勝ちに行く」と、彼自ら語っている。

最後になったが、APACでは屈指のIGLでありMontagne使いでもあるLunarmetalのプレイにも注目だ。 昨今MentalistCがサブIGLとなり、リーダーの重責を和らげることができるようになったので、Lunarmetalも撃ち合いに集中できる。

左から右へ。SpeakEasy、Ysaera、Lunarmetal、MentalistC、HysteRiX (写真提供 @AerowolfProTeam)

AerowolfはAPACでは三番手か四番手くらいのチームと言ってまず間違いないだろうが、それでも軽くあしらわれるべきではない。今週末はきっと自分たちの力を示してくれる。対戦相手はもちろん油断なんてまったくしないだろうが、それでも注意しなければならない。さもなくば、狼軍団から世界で初めての餌にされてしまうだろう。

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今週末の6月7日から9日にかけて、Allied Esports MinorでのAerowolfの活躍をお見逃しなく。初日と3日目は日本時間の早朝4時10分、2日目は早朝3時10分から始まります。

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